不穏の患者さんの行く先は

私の働いている回復期病棟は、急性期を脱した脳疾患の患者さんと整形の患者さんのリハビリを請負う病棟です。患者さんには若い人もいるけれど、病棟にいるのは主に高齢者。なので、患者さんの話のつじつまが合わなかったり、物忘れがひどかったり、目的もなく病棟内をふわーっと徘徊しているのも日常茶飯事だったりします。なので、脳疾患の患者さんの後遺症で高次脳機能障害がありますが、患者さんによっては高次脳機能障害なのか、はたまた認知症なのかよくわからなかったりします。

それにしても、個室から独語が聞こえ、車椅子で徘徊している患者さんやら、勝手に動いてしまってスタッフに確保されている患者さんたちやらがわらわら居ると、「ここは本当に回復期病棟なのーっ?」と、叫びたくなることがあります。

 

そんな中、今病棟のみんなで頭を悩ませているのが、高次脳機能障害もあるかもしれないけれど、がっつり認知症という患者さん。しかも、身軽でひょいひょい動けてしまいます。脳疾患の患者さんがトイレに固執するということは多いのですが、この方は特にひどくて、下手すりゃ5分おきにトイレに行きたがります。トイレが気になりだすと、他の事で気を引くことはできず、ベッド上で立ち上がってしまったり、ナースコール連打したり、硬い表情で車椅子のストッパーをかけたまま1人で動いていたり、車椅子から立ってしまったりと、不穏になってしまうのです。なので、ベッド上でも車椅子でも体幹抑制が外せません。ただ、この抑制が問題で…。

 

この患者さん、入院期限まであと1カ月しかありません。なのにまだ次の行き先が決まっていないんです。しかも、ご家族の希望で、老健に絞っての受け入れ先探し中。自宅では介護は無理で、金銭的に有料老人ホームはなしだそうで。なので、どうにかして老健に入っていただかないと行き場がなくなってしまうんです。そして、書類を出していた老健の1つから本人面談を受けられるという返事がきました。

 

ここからが難しいところでして。老健は退院時に体幹抑制が取れていない患者さんの受け入れは不可なのです。センサー使用の患者さんなら受け入れてくれます。有料老人ホームは施設によっては体幹抑制も可ですが、料金はかさみます。この方をどうにかして老健に入れるということはつまり、「抑制をしていることは施設側にはばれないようにする」ということなのです。

 

我々も体幹抑制を外せるように色々がんばってみてはいるんです。頻尿の薬を検討してもらったり、睡眠薬や向精神薬を出してもらったり、レクリエーションで気分転換をはかったり、おやつを持ち込んでもらったり。…でも一向に効果なし。空間無視もあるので、歩行時もふらつくし、障害物に気づかずに突っ込んでしまうこともあります。なので、体幹抑制を外したら即転倒という図が目に浮かびます。どうしても抑制を外せる気がしないんです。

 

本来は老健希望の患者さんの場合、早めに体幹抑制を外してセンサーに完全移行できるように段階を踏んでいきます。高次脳機能障害であれば、初めは危険認知が弱かったり、空間無視があったり、ナースコールの理解があいまいでも、リハビリによってある程度改善したりします。例えばナースコールを押せなくてもセンサーがなってからスタッフが到着するまで待つことが出来るようになったり、空間無視はあるけどきちんと確認しながら動けたりするんです。ただ、認知症や高次脳機能障害がひどかったりするとなかなか厳しくて。特にこの患者さんは不穏になってしまうので難しいんです。

 

本当は担当ナースやソーシャルワーカーさんがもっと早い段階で、抑制は外せないかもだから自宅が無理なら有料ホームも含めて検討すべきと言って説得しておかないといけないんですよね。それをしてないから「抑制してません詐欺」をしないといけない羽目になるのです。

 

結局、病棟で色々考えた結果、カルテやサマリーを見たらこんな詐欺まがいのことなんてすぐばれるし、そもそも本人と会えばセンサーじゃ無理ってことはすぐばれるということで、我々は嘘はつかずに「抑制は外す努力をしているところ」ということで面談を終えることにしました。1人の患者さんで嘘をついて信用を無くすと、今後他の患者さんを受けてもらえなくなるかもしれませんから。さて、結果はどうなることやら。面談の雰囲気的にはまずそうな感じだったかなぁ。

 

認知症の患者さんが今後どんどん増えていくと言われている日本において、今後不穏があるような患者さんの受け入れ先ってどうなっていくんでしょうね。不穏の方を自宅で看るのも大変ですし。

困ったものです。

 

今回は嘘をつかずに済んだけど、きっとこういう「抑制してません詐欺」みたいなのはよくある話なのではないでしょうか。うちが受け入れた患者さんでも、バルン抜いてますとか言って送ってきて、尿閉で即バルン再挿入とか、うちはリハビリ病院なのに、来てみたらベッド上安静の指示が出てる患者さんだったことありますもん。在院日数の関係で早く送りたいのはわかるけど、嘘はだめよね。病院や施設間でも信頼関係は大事ですもん。

 

 


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